お茶染め Washizu.×柴田ハル(GIGANTIC)静岡の伝統が詰まったお茶染めの茶巾袋
個性を発揮する染物作家
静岡では、安倍川流域で綿花の栽培が盛んだったことから古くから繊維産業が栄えてきた。
今川氏が治めた時代には布を染め上げる染色の仕事も発展、なかでも徳川家康による駿府城開城をきっかけに起こった武家からの“織物特需”に応じて育まれてきたのが「駿河和染」だ。今の静岡駅の目の前に紺屋町エリアがあるが、江戸時代初めに染物職人の町として整備されたことが由来とされる。
500年を超える伝統を誇る駿河和染は、いわゆる「草木染め」に分類されるが、全国各地にある同種の染物産地と比較して特徴的なのは、染色を手がける個々の職人が独自のスタイルを確立している点だ。
「産地特有のスタイルをその地域みんなが継承し一緒に取り組むというイメージがあるかもしれませんが、駿河和染に関しては、それぞれの店がそれぞれ違う技法でものづくりを行なっているんです」
そう話すのは、静岡市「鷲巣染物店」5代目の鷲巣恭一郎さんだ。
江戸から明治へ時代が移ると、機械化や他産地の勃興などにより染物職人の仕事は減少、伝統の染物は一度は衰退してしまう。再興のきっかけとなったのは、大正時代の民芸運動。特に、当時静岡県立静岡工業試験場の技師で後に人間国宝となる染色家、故・芹沢銈介氏が、静岡に残る染色の技術と芸術性を見出し、駿河和染を伝統工芸として後世に遺すことになった。
「型染め」は、日本の伝統的な技法だが、芹沢氏がその価値を再発見し作品制作に用いたことで駿河和染の代表的な技法となっている。鷲巣さんも、この型染めの技法を用いてさまざまなデザインの染物を生み出している。
「“染物屋”としてではなく、“染物作家”として一人ひとりが腕を磨いてきました。それが技術、個性、作家としての多様性につながったのだと思います」
お茶染めが開く、和染の新たな扉
鷲巣さんの“個性”として欠かせないのが、「お茶染め」だ。
日本一の茶どころとして知られる静岡だが、ある時に地元のお茶業者が大量の茶葉を余らせてしまっていた。それを草木染めの応用として使えないかと試したところ、きれいに染めることができた。静岡伝統の染色の技術が、同じく伝統のお茶と融合したのだった。
「文化として広げていこうとやっていますけれども、決まったフォーマットがあるわけではないのです。チームでやっていくことで産地やその文化というものができてくると思っているので、このBank of Craftという概念が一つのヒントになるのではと、最初に直感的に感じました」と、今回のプロジェクトに大きな期待を寄せてくれた。
そして、「コラボレーションはお茶染めの醍醐味です」と続ける。
「僕にないスキルを持った方がお茶染めをプラットフォームとして新たな表現をしてくれるところが一番の魅力。自分の中からは決して出てこない大胆なデザインを期待しています!」
そう語る鷲巣さんに共鳴して、新たなデザインに取り組んだのは、デザイナーの柴田ハルさんだ。
新たなルートで広がる伝統×デザイン
柴田さんは、コンセプト開発からアートディレクション、空間、ビジュアルと、トータルにデザインを手がける「GIGANTIC」の代表を務める。今回も「モノとしての仕上がり」を意識してデザインに取り掛かった。
「和っぽさといったイメージにとらわれないように考えました」と柴田さん。クラシックな和風模様を簡単に連想させず、それでいて「自然」や「筆の運び」といった日本の美意識が滲み出るデザイン案が浮かび上がった。
プロトタイプを早速染めてくれた鷲巣さんは「染めてみてわかる質感があります。面白いな、の一言ですね。お茶で染まる黄色い部分が大胆に使われていたので、お茶染めのことを一度理解した上で作ってくれたのかなと」と応える。
そうして新たな生まれたお茶染めは、一つひとつ手作業で染められ、茶巾袋に仕上げられた。コラボレーションの一環として、中には静岡市「茶屋すずわ」による県産の茶葉を使用した茶葉3種(煎茶、紅茶、ウーロン茶)が入る。
「紐や開口部などのディテールにこだわりを感じ、男女問わず愛用していただけそうですね」と鷲巣さん。ほどよい大きさとしっかりとした生地感で、何を入れるにも重宝しそうだ。
使うほどに愛着が湧く。手仕事ならではの温かさを感じさせてくれるプロダクトは、これまでお茶染めや和染に触れたことのなかった人たちの暮らしにも寄り添うことだろう。
「コラボレーションすることは好きなので、やるならば僕からは出てこないような、デザイナーさんの思い切ったデザインをとお願いさせていただきましたが、そういう形になってよかったと思います。僕とは違うルートでお茶染めが広がっていくのは、とても楽しみです」
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