森秀織物×有久絵美桐生織の伝統と風景をモチーフにしたショルダーケース
長い歴史と、新しいものを受け入れる多様性
遡ること1300年余り、奈良時代に起源をもつといわれる桐生織。「西の西陣、東の桐生」と謳われ、国内屈指の織物として長い歴史と伝統を持つ。
きめが細かくなめらかで柔らかい触感、独特の艶やかさが際立つ絹織物。今でも「御召(御召縮緬)」として知られる着物は、ときの将軍・徳川家斉が好んで“お召しになった”ことが由来といわれるから、その由緒正しい歴史は容易に知れる。
御召織に加えて、緯錦織、経錦織、風通織、浮経織、経絣紋織、綟り織という7つもの織りの技法が受け継がれ、国の伝統工芸品として指定されている。時代の要請とニーズに従って、着物の他、羽織、紬、帯など、さまざまなものがつくられてきた。
「ここ桐生の地は、気候や地形だけでなく、桐生川のきれいな水にも恵まれているため、昔から織物が産業として発展しました」
そう語るのは1877年に創業した「森秀織物」代表・織物職人の長谷川博紀さんだ。
群馬県の東、栃木県との県境に位置する桐生市。赤城山を望み、桐生川と渡瀬川という二つの清流がある、自然の美しい土地だ。
また、養蚕が盛んだったこともあり、織物に必要な原材料の生産から職人によるものづくり・製品化まで一気通貫してできるのも特徴だ。
「桐生織には、新しいものを受け入れる多様性があります」
さまざまなニーズにものづくりで応えてきた職人の伝統があるからこそ、桐生織の歴史は連綿と続いてきたのだろう。長谷川さんは、Bank of Craftのコラボプロジェクトにも大きな可能性を感じていると話してくれた。
桐生織の伝統を、現代の実用の美に活かす
工房を訪れたのは、デザイナー・有久絵美さん。企業の広告などデザインワークを幅広く手掛けるほか、花を用いてデザインする「HANAg(ハナグラム)」としても活動している。
「職人さんがアイデアの羽を広げて多くの技法が生まれてきた桐生。受け継いできた方々の気持ち、時代の空気を汲み取って新たなデザインを目指せたら」
コラボレーションへの意気込みをそう語りながら、桐生織の歴史が詰まった森秀織物の工房を見学した。
将軍にも愛されたという歴史ある桐生織だが、有久さんはその「実用の美」に着目し「半径1メートル」で使いたくなる形を模索したいと語る。
「(桐生織の伝統は)一人によってつくられたわけではなく、時代、社会、多くの人たち、地域の特性と美意識が結びついて生まれたものだと私は思います。手に取る方が、そういうことを少しでも感じられるデザインができたらと思います」
手織り機の大きさを目の前で見て、それが動く音を聞いて、藍染を自らの手で体験しながら、その伝統と地域の特性を肌で感じることができた有久さん。
「実は工房にお邪魔する前に桐生川も見てきたんです」と、その周辺の風土を体で感じることも忘れなかった。
「この地に流れる桐生川と織物に共通する“滑らかさ”、“ゆらぎ”などの抽象性や有機的な要素を活かしたいと思いました。命の記憶・水の記憶が織り込まれたデザインをテーマに、実用の美を目指したいです」
結果、有久さんの感性が生んだデザインは、高級織物として桐生織が国内外で珍重されるきっかけとなった「八丁撚糸」の技術によって実現されるお召織りの質感をイメージしたもの。
「お召織りの気品ある輝き、光沢、さらには縮緬の雰囲気を、グラデーションを用いてグラフィカルにデザインすることで桐生川の流れもイメージさせるデザインができると思います」
まるで桐生織の伝統とそれが受け継がれる土地へのトリビュートのように、有久さんがデザインした美しい曲線。水面の煌めきのような色彩には、目が惹きつけられ、自然と手が伸びてしまう。
スマホなどがちょうどよく収まるショルダーケースの表面はやや不透明度のある素材。「霧生」という桐生の由来をも感じさせるが、実は、廃棄ビニール傘を再利用してつくられている。いわば、伝統とサステナブルだ。
仕上がりを確かめた有久さんは「桐生で感じさせていただいたことが、鮮やかに反映されていて嬉しいです」と頬を緩めた。桐生織の伝統を踏まえ、「実用の美」を目指した有久さんとのコラボレーションが結実した。
ショルダーケースの購入はこちらwww.instagram.com/emi_hanag